実は、「年金」よりも「国民皆保険制度」の方がはるかに深刻な状況にある。
そのことさえ、「なんとなくそうらしい…」程度にしか知らなかった自分が書くのもなんだが、この本を読んで感じたことについて、書きたいと思う。
「国民皆保険制度」が無くなったら絶対に困る。
6月に心臓の手術を受け、高額療養費制度の恩恵に与った身としては、切実にそう思う。
でも、このままでは、きっとダメなんだろうな…といった不安感に、
「ええ、あなたが考えているよりずっと深刻です」
と、次々に事実を突きつけながらも、後半で一筋の光を見せてくれるのが江崎禎英さんの『社会は変えられる』だ。
経産省の現役官僚である江崎さんは、わたしたちが今、何を間違えているのか。あるいは、気づかないふりをして知らん顔しているのか。その状況について説明を始める。
現在の社会保障制度の状況は、太平洋戦争の末期に似ています。
世界から奇跡と賞賛される「国民皆保険制度」という豪華客船が、沈没へと向かう今の様子は、あの戦争を思い起こさせると江崎さんは語る。
重厚な組織や体制ほど、行き着くところまで行かないと方向転換できないものです。
人は苦しくなると「思いもよらない奇跡が起こる」と信じたくなるものです。そうして“前向きに”逃げようとします。
ただ逃げて、状況を先送りしても、何も変わらない。
時代に合わなくなった制度は変えるべきだ。
これまでの常識の外に踏み出して考えよう!
と、訴えかける。
そもそも高齢者“対策”という言い方は、どうなのか?
これでは、まるで長生きすること自体が、「悪」のように感じてしまうではないか!
抗がん剤治療は、患者と家族を本当に幸せにしているのだろうか?
糖尿病治療をこのまま放置して、いったい誰が得をするのか?
「こんなこと書いちゃって大丈夫なの?」と、どこかハラハラするような事柄を、データをもとに冷静に語っていく。
そして言うのだ。
「おかしいことはおかしい!と、言わなければならない」と。
行政の仕事に携わる中で江崎さんは、次の3つのことを学んだと言う。
「おかしいことはおかしいと主張する」
「引きべきところは引く」
「信念を持って誠実に取り組めば必ず誰かが助けてくれる」
そうした、ひとりの「おかしい!」という言葉が、周りの人々を巻き込み、未来を変えてきたことが、江崎さんの取り組んできたいくつもの実例によって、紹介されていく。
岐阜県庁への出向時代、「多文化共生」の担当次長として、江崎さんが外国人問題に携わった時の話には、胸が熱くなった。
リーマンショックによって日本での職を失った多くのブラジル人を、彼らが望む「帰国」という形で救ったのだが、そこには、彼自身の揺るぎない信念があり、それによって心を動かされた人々の協力があった(最後の最後で待ち受けるアクシデントへの、ある担当者の対応はまさにドラマ!)。
また、東日本大震災が発生した際に、福島県被災者の受け入れに奔走した時の話では、涙が出てきた。
ここでも、江崎さんが追い詰められたときに、常識では考えられない、崇高な協力者が登場する!(涙)。
そして、最後には、何をどうすれば「社会は変えられる」のかが、具体的で現実的に書かれている。
江崎さんによれば、「イノベーション」とは、新たな技術を開発することではなく、私たち自身が「常識を変えること」だそうだ。
そして、経験則的に言って…
「信頼できる仲間が3人いれば、社会は変えられる!」
ということだ。
できない理由を探している場合ではないよな…。
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